鏡付の箪笥をつくる。この鏡付の箪笥を錫の裏箔のためにつくる。 |
訳注
1-このメモに註釈を加えることは難しい。文章は余りに平易であり、しかもデュシャンの作品のなかに、これに対するレフェランスを見出すことは困難である。
「大ガラスの」《検眼表》の部分は、銀メッキを必要な図形だけ残して削り落として作られたことを考えるとソノ作業工程で必要な道具だったのではないだろうか
2-ただ僅かにひとつ、「鏡付の箪笥」そのものが登場する作品がある。「修正されたレディ・メイド」として有名な『エナメルを塗られたアポリネール』(1916-17年,S243,Ph119,P109)であり、その右端に「鏡付の箪笥」がある。デュシャンはその鏡のなかにエナメルを塗る少女の後姿、つまり髪の毛を描き込んでいる。また、この作品の寝台の部分は着色された錫板でできている。
元の記事 Apolinère Enameled(1916–1917)
3-また、箪笥ということを離れて考えれば、当然『デルヴォ一風に』(1942年,S312,Ph160,P146)における周囲を錫箔(ただしS,Phに従う。Pはアルミニウムと言う)によって覆われた鏡を想い起すこともできるだろう。
元の記事 In the Manner of Delvaux(1942)
4-「鏡」も「箱(箪笥)」も、デュシャンにおいて豊かな反映をもつテーマであるが、おそらくこのメモ自体の内部でそれらを掘下げることは無理だろう。強いて言えば、「錫の裏箔のために鏡付の箪笥をつくる」という論理は明らかに日常世界の論理の逆転であり、そこに鏡の世界に特有の構造を窺うこともできよう。
5-なお、文章や単語の水準を離れて、一種の記号分析(=破壊)(J・クリステーヴァ)の水準で考えてみると、《armoire》(箪笥という単語を、(ar+moi+re》と分解し、《arre》→《arrhe》→《art》(芸術)〔〔14〕番のメモを参照〕のなかに《moi》(私)が割り込んでいる、あるいは閉じこめられているイメージを、箪笥や鏡との関連において、導き出すことも可能かもしれない。
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