2008年5月1日木曜日

1914年のボックス 読解(序)


1914年のボックス 《一九一四年のボックス》読解文序 一九一四年、デュシャンは自筆のメモ類を写真によって複製し、ボール紙の箱に入れたものを3部だけ作り、パリで《出版》した。二十年後の『グリーン.・ボックス』の試作品とも言うべきこのメモ集は、-般に『-九一四年のボックス』La boîte de 1914(S210,Ph,P90)と呼ばれる。



元の記事  Marcel Duchamp, The Box of 1914, 1913-14

このボックスには十六のメモと一枚のスケッチ(「太揚のなかに徒弟をもつ」)が収められ、それらはすべて十五枚のボール紙の台紙(25×18.5cm)に貼られている。


元の記事 Marcel Duchamp, Avoir l'apprenti dans le soleil [To Have the Apprentice in the Sun], 1914

台紙の枚数が少なくなっているのは、《三つの停止原基》に関する三つのメモ(〔1〕~〔3〕)が一枚の台紙にまとめられているからである。



元の記事 Marcel Duchamp, Three Standard Stoppages, 1913



容器の箱はコダックの写真乾板の空箱が使われている。

なお、オリジナルのメモは、のちにウォルター・アナレンズバーグに与えられ、現在はフィラデルフィア美術館のアレンズバーグ・コレクションに所蔵されているが、それもほぼ同様の体裁をとっている。

これらのメモは《停止原基》に関するものを除けば、《大ガラス》あるいはデュシャンのその他の作品に対する直接的なレフェランスを持たない。

とすれば、このボックスは、いわば『グリーン・ボックス』の余白に書かれている、と言うこともできるだろう(メモが書かれた年代そのものは「グリーン・ボックス」とほとんど変わらないことに注意しよう)。

だが、われわれはこの余白においてこそ、デュシャンのもとでの様々な観念(《製作の理念》)の生成の現場により一層近く立ち会うことができるのではないだろうか。

現実の作品へと結実する遙か以前の発生状態のアイデア、あるいはむしろ言葉の上での単なる思いつき-デュシャンの言葉は、単純であればあるほど、曖昧な意味の複合、不透明な余白の混沌へとわれわれを導いていくだろう。

他方、このボックスはそれ自体ひとつの《作品》、しかも極めてデュシャン的な作品であることを認めなければならない。

それは《写真》によって記録されており、容器の《箱》は写真乾板用のまさに《レディ・メイド》である。

『カバンヌとの対話』でデュシャンは、こうしたボックスについて、はじめから箱のイメージがあったわけではなく、むしろアルバムのような形にすることを考えていたと語っている。

そして、おそらくわれわれは、そのアルバムから箱への飛躍のなかにデュシャンの《創造的なプロセス》を見出すこともできるだろう。

なお、このボックスの「三」という製作部数にも、彼の原型的なオブセッションを認めることができよう(メモ〔1〕-〔3〕およぴ〔12〕の註参照)。

翻訳にあたっては図版として掲げたアルーサーロ・シュヴアルツによるファクシミリ版(A.Schwartz,《Notes and Projectes for The Large Glass》)を底本として用い、メモの配列はミシェル・サヌイユ編《Duchamp du signe》に従った。

ただし、実際には、メモに定まった順序があるわけではなく、各メモに付されたナンバーは参照のための便宜的なものに過ぎないことに留意されたい。

この《ボックス》には、英訳としてHamilton.《The Bride Stripped Bared by Her Bachelors, Even》, Schwarz《Notes and Projectes for The Large Glass》,があり、日本語にも瀧口修造(《デュシャン語録》、粟津則堆(《みづゑ》1968年12月号)、東野芳明(《マルセル・デュシャン》)の諸氏によって部分的に訳されている。

今回、われわれの翻訳には、註を付け加えたが、デュシャンのメモの本来的な在り方からして、故によって原文の正確な意味により一層近付くことができるというわけにはいかないだろう。《正確な意味》などどこにもなく、むしろ無数の多義的な意味の可能性があるのであり、われわれの註がそうした一意的ではない拡がりを多少とも開くことになれば倖いである。

かなり強引とも思えるレクチュールを付け加えたものもあるかもしれないが、それはそうした様々な水準にたわる多義性のうちのひとつの《可能的なるもの》として受け取って載きたい。もちろん、われわれの註はかなり部分的なものであり、また訳そのものについても、なお不都合な点も多いと思われるので、大方の御教示を載ければ倖いである。

最後に註の中で用いた略号を示しておく。 LG=A.Scbwarz, 《Notes and Projectes for The Large Glass》,Ed.Thames and Hudson,1969,London.(LGの後に添えられた数字は同書中でのメモのナンバーを示す)。 DDS=《Duchamp du signe》,Ecrits réunis et présentspés par Michel Sanouillet, Flammarion, 1975, Paris. CW=Arturo Schwarz《The Complete Works of Marcel Duchamp》, Thames and Hudson, 1969, London. S=CW作品目録のナンバー。 PH=フィラデルフィア美術館、カタログ・ナンバー(Anne d’Harnoncount, Kynaston of Mordern Art and Philadelfia Museum of Art, 1973, New York) P=パリ「デュシャン展」カタログ・ナンバー(《Marcel Duchamp, catalogue de la retrospective Marcel Duchamp 》 Tome Ⅱ, Centre national d’art et de culture Georges-Pompidou, 1977, Paris)





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