2008年5月3日土曜日

1914年のボックス 読解(2)

ばんざい! 洋服とラケットおさえ


訳注

DDSによれば(36頁)、このメモは封緘葉書の断片に書かれている。LGのファクシミリを見ると、この下にさらに文章が続いていたように思われるが、破り取られて、残りは失われている。

1-「ラケットおさえ」は、テニスラケットの形を整えておくためのものだが、フランスではⅩ字型のものが多く使われているという。

2-デュシャンとテニスとの関係について、われわれが知っているのは、僅かに妹シュザンヌがテニスをしているところを描いた最初期のスケッチ(1902年,P2)だけである。

3-「洋服」という問題は、「大ガラス」のなかの「制服」の問題はおくとしても、デュシャンの作品中の幾つかのものと関連する。洋服そのものをモティーフにした『ジャケット』1956年,S339,Ph172)、『チョッキ』(1958年,S342,Pb173,P159)などがある。



元の記事 Waistcoat Replica, 1958 (Collection Arturo Schwarz) 



4-さて、「洋服」と「ラケットおさえ」とのあいだにどのような関係が考えられるだろうか。こうした謎のような問いに答えることはほとんど不可能に近いが、敢えて言えば、「ラケットおさえ」ほ、ラケットが使われていない時に、つまり本来の動的な在り方から離れている時に、ラケットに一定の形を押しつけておくものであり、また他方「洋服」も、ある意味では同様に、人間の本来の動的な在り方を束縛し、人間に社会的な一定の型を押しつける役目を果しているものである(その極端な例が制服だろう)。『階段を降りる裸体』(S181, Ph72,P64)に顕著に見られるようなデュシャンにおける裸体と運動との密接な結び付きを考慮すれば、こうした解釈の方向、すなわち文章全体をイロニーとして考えることも許されよう。

「ラケットおさえ」は、確かに何を指しているかわからないが、「秘めた音で」との関係について、以下に述べられている。

With Secret Noise borrows its material of tight strings and unmeasurable
chords
from the "presse raquette." The Green
Box describes this object as
a "Tirelire ou (conserves)...": another
lyre, a tirelire, a
pull-lyre or pull-read. Did it also come from the conservatory?

[ Carol P. James,"Duchamp's Silent Noise/Music for the Deaf," in Kuenzli and Naumann, eds., Marcel
Duchamp: Artist of the Century, MIT Press, Cambridge (1989), p. 106. James
translates Duchamp's original phrase:"Long live clothes and the racket press!"
p. 124, note 44. ]




元の記事 With Hidden Noise Original version, 1916

私は1926年の復活祭のときに、三つのレディ・メイドをつくりましたが、失くしてしまいました。三つのうちのひとつがアレンスバーグのところに残っています。彼は二枚の板のネジをはずして、なかに何か入れました。もう一度ネジを締めると、音がするようになった・・・・・・。なかに何がはいっているのか、私は全然知りません。その音は私にとって秘密なのです。

マルセル・デュシャン,ピエール・カバンヌ (岩佐鉄男、小林康夫訳):「デュシャンは語る」、(筑摩書房,1999)107頁

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