樽遊びはひじょうに美しい巧みさの《彫刻》である。 連続した3回分の成績を(写真によって)記録すること。 そして、《全然入らない場合》やちょうど平均的な場合にくらべて、《全部入った場合》をとくに選んだりしないこと。 |
訳注
1-《樽遊び》jeu de tonneauとは,『プチ・ロベール』によれば,上部に数をふられた穴があけられている箱(昔は樽が使われた)に金属 の円盤を投げ入れる遊びである。その形はデュシャンのメモの原文に小さなスケッチがる。訳の方には現われていないが,この箱のことを《蛙》grenouille(これは俗語で貯金箱を指す)とも言うらしい。つまり,《全部入った場合》と訳したところは《toutes les pièces dans la grenouille》(すべての繋が蛙のなか)となっている。
2-《巧みさの彫刻》とほいえ,それはメモの後半にあるように《巧み》であることが重要なのではない。うまく穴に入れようとしてあるものは外れてしまうし,あるものは入るだろう。その意図を超えた偶然の作用によって得られる結果がおもしろいのであり,意図と結果とのズレが《ひじょうに美しい》と言われているのである。これは〔1〕〔2〕〔3〕の註3で述べた《芸術係数》という考え方に直接につながっていくものであろう。また、《大ガラス》の《九つの射撃の跡》-おもちゃの大砲にマッチを詰めて,一点を狙って発射し,その結果の通りに穴を九つ開けたもの-もまったく同様の《巧みさ》という意図と偶然との相剋のドラマによってつくり出されている(DDS54頁参照)。このどちらも、穴に関係するわけで、おそらく《九つの射撃の跡》は《棒遊び)の直接的な発展型として考えることが許されよう(この発展においては、辛が大砲という機械に置き換えられていることに注意しなけれはならない)。
3-《風-換気弁のために/巧みさ-穴のために/重さ-停止原基のために》(DDS55貢)-これは『グリーン・ボックス』の中のメモである。いずれも偶然性を生み出す要因あるいは媒体と作品とが対応させられているわけだが,最初に掲げられた《換気弁》ともこの《樽遊び》は強い連関がある。つまり《換気弁》は,《大ガラス》上部の《高所の掲示》あるいは《銀河》と呼ばれる部分に開けられた三つの方形であるが,それはガーゼを吊るして,それが風によって揺れるときの瞬間的な偶然の形を写真によって記録することによって得られるものであり,《樽遊び》の場合の《写真》という記録手段が生かされているのである(DDS55-57貢参照)。
Together with the Draught [Draft] Pistons and the "shots," the Standard Stoppages make up the triplet of chance-controlled deformations used in the Large Glass. The "shots" (nine holes drilled through the glass at positions determined by projecting a paint-dipped match from a toy cannon aimed at a target) are deviations from a point--the target. The Standard Stoppages (chance configurations of three pieces of thread one metre long) are modifications of a line. The shapes of the Draught Pistons were established by photographing a square piece of net moving in a draught--changes wrought in a plane.
[ Richard Hamilton, The Almost Complete Works of Marcel Duchamp, Tate Gallery, Arts Council of Great Britain, London (1966), p. 48. ]
元の記事 Draft Pistons, 1914
4-さて、このように偶然によって時間の要素が導入されることによって、《樽遊び》の三次元的な《彫刻》は四次元的な営為の像となり、それがさらに写真によって二次元の像へと変換させられる。デュシャンは《彫刻》を,常に四次元世界の変換された像と考えるのであり、そうした考え方の上に立って《音の彫刻》や《滴りの彫刻》を構想している。
三次元の物質に時間の要素を加え四次元を考えると、四次元の影としての3次元をさらに写真により二次元の像へ変換させている。デュシャンはさらに四次元の物質の三次元への投影された「影」を「音楽的彫刻」として発展させている。
音楽的彫刻
持続しながら、そしてさまざまな点から出発しながら、そして持続する音響的彫刻をつくる音。
類似した 二つのもの─二つの色、二つのレース、二つの帽子、何らかの二つの形─を識別する可能性を失うこと。ある類似したものから別の類似したものへと記憶痕跡を移すのに十分な視覚記憶の不可能性に達すること。
─複数の音に開音、そして知能[cervelites]に関する可能性さえも。
(GB) 北山訳エコー。潜在的な音[虚音]
第四次元としての潜在性[虚性]とは、感覚的外観を持つ(現実)ではなく、ある量塊の潜在的表現[代理表象](鏡のなかのその反射に類似した表現)。
(WB)北山訳
0 件のコメント:
コメントを投稿